平成17年度特定領域研究統合脳冬の班会議印象記から

by manager

小田領域内広報委員長の方から班会議の印象記をということでしたので、気楽に書かせていただきます。

「この歳でポスターはいややな」と思っていたところ、「担当者による発表内容の評価結果が、次回の公募研究採択に反映する場合もあるということをご考慮の上、臨まれますよう宜しくお願いいたします」という貫名領域代表からの事前の連絡で、多少の緊張感をもって厳しい寒さの中東京に参りました。会場(学術総合センター)はこの夏に行われた京大大学院説明会の東京会場と同じだったので、(その折神保町の駅から女の子について行き間違って「共立女子大学」に入ってしまったような事もなく)迷わず着きました。基礎医学出身の私にとって、病態脳(第5領域)ははじめてで、前の先端脳の時から近づき難い「病気」の領域でしたが、皆さんよい(?)人達でした。発表形式は、全員(もらっている研究費総額にかかわらず!)5分間の口頭発表とポスター発表でした。「5分で何が話せるんや」と思っていたものの、限られた時間(日)の中で、全班員がどんな事をしているかをとりあえず知ることができ、また、最終日午後の全体のもあわせると合計5回にわたるポスターコアタイムは、お互い(当たり前ですが、知っている人、知らない人が)直接話をすることができる貴重な時間となりました。A01(アルツハイマー病、パーキンソン病)、A02(ポリグルタミン病など)の2班は数も多く、いわゆる神経疾患で、先端脳の時代も含め過去十数年間でその原因に関してはかなり研究も進み、今回の発表では、内容的には、メカニズムのディーテイルにはいっているもの、治療法を目指すものが大半で、「これでもかこれでもか」という感じでした。一方、私の所属するA03(機能性精神疾患)は、数が少ない上に、まさに様々なアプローチ、対象があり、「物足りない」印象を受けたのも事実ですが、生物学の研究領域としてまさに今成長を実感できる時期であると感じたのも事実であります。ただ、この事実を統合脳全体の班員の方に充分知っていただけなかったかもしれないのは、ポスターの場所が隔離されていたからではないかと思います。第1領域や第2領域のポスターは、言わばメインストリートに飾ってあり、黒山の人だかりにびっくりしました。最終日午後の全体のポスター時間になっても、他領域をみに出て行く人より新たに他領域から来る人の人数が少なく感じたのは、内容の問題というより場所の問題であったのではないでしょうか。実際、帰り際に会った他領域の班員の中には、「そんな隠れた!場所でもやっていたんや」という残念な声も聞きました。

さて、少しはサイエンスの話もいれようかと思いますが、折角いただいた機会なので、ポスターを見ていただけなかった班員の方々に我々の仕事をさわりだけ紹介致します。精神機能の分子的アプローチの問題点は的確な定量的アッセイ系の欠如です。よって、候補遺伝子の遺伝子操作マウスを作製しても、それをヒト疾患と診断するすべがない訳で、あくまで”putative” modelで終わってしまう現状です。また、現象を分子に置き換える上でもっともパワフルなアプローチの一つは遺伝学ですが、この領域の変異(精神疾患)の場合、診断はヒトでしかできないので、ヒト遺伝学が当然重要になります。しかしながら、精神疾患は、病気自体の多様性、偏見、あるいは血液生化学データや画像といった客観的診断法の欠如等のために、(特に日本では)ヒト遺伝学的研究にも様々な問題点があります。この閉塞状況の中で、現在取りうるアプローチとして、我々が行ったのは、最新のゲノム工学の技術を用いてヒト生物学(染色体)異常をもったマウスを作り、前向き遺伝学のファウンダー(本当は自然発症のマウスもいるのでしょうが見つけるすべがない)、ヒト疾患のスタンダードモデルとして解析するというものです。具体的には、自閉症の細胞遺伝学異常としてもっとも多いことが知られているヒト染色体15q11-13領域の重複をマウス相同領域に作ります。すなわち、6Mbpにわたるマウス相同染色体7c領域をCre-loxPシステムを用いて重複させたマウスを作製する事に成功致しました。行動解析をはじめ、さまざまなアプローチを、かつシステマティックに行っています(あるいは行う予定です)ので、今後も班員の方々との共同研究を積極的にすすめていきたいと思っております。貫名領域代表が、統合脳発足時に言われた「機能性精神疾患研究のフロンティアとなるべき研究」を目指して頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します。

 

内匠 透