1日遅れのクリスマスプレゼント

by manager

(細胞工学 vol25, No7, 2006 一枚の写真館から)

大学院2年のことである。昭和62年12月24日、クリスマスイヴの夜午後11時05分、魚臭いカエル部屋でアフリカツメガエルの卵へのRNAのインジェクションがいつも通り終了した。何ヶ月間も卵に打ってはアッセイする繰り返しの連続も結果はネガティブ続きで、私は流石に心身ともに疲れていた。今回だめなら、気分転換のつもりで実家に返って正月をゆっくりするつもりだった。12月26日、アッセイをはじめて3時間以上が経過した午後8時05分、思わずつぶやいた。「でとる」(図HindIII-NotI1矢印、左隣の3はネガティブ、右隣の2は再現性あるポジティブ)1日遅れのクリスマスプレゼントだった。数えきれないくらいのネガティブを見てきたからこそ、「これは違う」という確信がもてた瞬間だった。この夜の感動が、未だに私をサイエンスに駆り立てている。明けて63年の正月を研究室で迎えたことは言うまでもない。

図(背景)解説:当時、京大医学部中西研では、卵母細胞発現系と電気生理学的アッセイを組み合わせた発現クローニング法が立ち上がりつつある頃であった。これにより、膜蛋白質を精製する事なしに直接cDNAクローニングすることができた。cDNAライブラリーからcRNAを合成し、卵母細胞に注入して、膜電位固定法によりアッセイするというものである。何故か膜電位を0mVに固定するという、当時の電気生理の知識のなさが、思わぬ発見を生んだ。結果的に脱分極によりゆっくりと活性化するチャネル活性を見つけたことになる。当初何かわからぬ現象(ふわふわとして!安定しない基線)は、大久保先生の多大なる助けもあって苦労しながらもクローン化でき(Isk, KCNE1)、私の学位の仕事になった。今やヒト不整脈(QT延長症候群)の原因遺伝子として知られ、III型抗不整脈薬も開発されている。何かと応用化が叫ばれる昨今、基礎医学(研究)は重要だとあらためて思う。

 

内匠 透