研究プロジェクト

 

文部科学省「精神神経疾患を理解するシナプスのスクラップ&ビルド」

興奮性シナプスは、神経細胞樹状突起から突き出たサブミクロンの突起(スパイン)上に形成される。スパインの数は形成(ビルド)と破壊(スクラップ)の動的平衡によって決まり、発達期に増加し成長後にゆるやかに減少することが知られているがその分子基盤は未解明である。本研究では、自閉症原因遺伝子とその下流に焦点を当て、大脳皮質でのスクラップ&ビルド機構の分子機序を明らかにし、行動解析やin vivoスパインイメージング法によってスクラップ&ビルド現象の破綻と高次機能障害との関係を解明する。

日本学術振興会「自閉症の生物学的統合研究」

自閉症は社会性の障害に代表される発達障害である。遺伝的寄与が高いが環境要因の関与も否定できない多因子複合性の疾患で、その病態解明は未だ断片的である。本研究では、細胞・シナプス(自閉症細胞モデルの開発)、回路・行動(社会性行動異常の神経回路の解明)、さらには環境要因(脳腸連関による脳発達障害)レベルで、それぞれの最先端技術を導入した方法論を取り入れ多面的に解析するとともに、それらの結果を連関、統合する事により、複雑な自閉症の病態解明に迫る。自閉症の生物学的研究として、本成果は新規診断・治療法開発への基盤は勿論、正常の社会脳発達の理解に貢献する事が期待される。

日本学術振興会「自閉症細胞モデルによる病態理解のための表現解析」

自閉症は社会性の障害に代表される発達障害であり、その発症にはコピー数多型(CNV)等の遺伝的寄与が示唆されている。我々はCNVの自閉症モデルマウスを開発した経験から、ヒトで報告されている全てのCNV(約100種類)の網羅的胚性幹(ES)細胞ライブラリーを、独自に開発した次世代染色体工学を用いて構築し、シナプスレベルを含むin vitro, in vivoの多面的表現解析を行う事を考案した。本網羅的自閉症CNV細胞ライブラリーは科学コミュニティーにとって貴重な研究リソースになるばかりでなく、表現型解析が行える自閉症細胞モデルという新しい研究概念を提供する。

日本学術振興会「気分障害と概日リズムの分子相関理解のための統合的研究」

気 分障害と概日リズムとの関連は従来から示唆されているところであるが、その分子相関研究は、時計遺伝子を含む様々なリズムの定量的アッセイ系が確立された 現在でこそ可能になったプロジェクトである。研究代表者の研究室で最近明らかになった気分障害における概日リズム表現型をもとに、本研究では、気分障害の 新規エンドフェノタイプを同定・確立するとともに、そのシグナルパスウェイを明らかにする。気分障害の分子病態理解を目指すとともに、本研究の成果として 得られる新規抗体やモデルマウスは、これまでの概念とは一線を画す新規診断法や治療薬のスクリーニング系の開発基盤となることが期待される。

Human Frontier Science Program “Networks, genetics, clocks and psychosis: a multi-disciplinary and multi-scale approach”

The lack of information on the physiological basis of the neuronal control of mood severely limits the study of mood disorders. Recent evidence suggests that the circadian (~24-hr) timekeeping system in mammals can trigger mania or depression. Circadian mistiming has also been shown in animals or patients showing symptoms of mania or depression. Here, we study how the central circadian pacemaker, located in the suprachiasmatic nucleus (SCN) of the hypothalamus, controls and is regulated by mood. Functionally, the SCN appears homogeneous and most SCN neurons contain the inhibitory neurotransmitter GABA. In reality, however, SCN cells display heterogeneity; many but not all SCN neurons contain the intracellular molecular clock and some SCN neurons can be further distinguished by their neuropeptide content. Further, we recently showed that neurons in the SCN show a wide variety of electrical states, from hyperpolarization during the night to a novel depolarized states during the day. Consequently, neurons and subregions in the SCN vary in their key cellular and molecular properties. Here, we use behavioral, genetic, and pharmacological models of mania and depression and determine alterations in SCN timekeeping at molecular, cellular, and network levels. Experimental results will be incorporated into detailed mathematical models, which will then predict future experiments. This will identify which network states of the SCN (or states of subpopulations of SCN neurons) trigger manic or depressive symptoms. We will also determine how mutations in key components of the intracellular circadian clock are linked with mood and lead to changes in the overall state of the SCN. Finally, we will determine if desynchronized timekeeping among SCN neurons or pathological electrical activity, triggers mood phenotypes.

文部科学省「神経細胞におけるRNA障害と脳内環境の関連研究」

我々は、これまでにRNA結合タンパク質TLSが神経細胞において核のみならず樹状突起及びスパインに存在し、スパインの形態形成に重要なこと、グルタミン酸シグナル依存的に樹状突起シャフトからスパインに移行すること、またスパイン形態に関与するmRNAを運搬し、それらの輸送にはアクチンモーターであるmyosin-Vaが関与することなどを明らかにしてきた(Fujii et al, Curr Biol, 2005; Fujii and Takumi, J Cell Sci, 2005; Yoshimura et al, Curr Biol, 2006)。2009年にTLS/FUSが筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子であることが報告された後、世界中でTLSの研究が盛んになったが、 我々はそれ以前からTLSの神経系での機能解析に取り組む世界で唯一のグループである。さらに、最近新たに同定したALS原因遺伝子optineurin(OPTN)の研究(Maruyama et al, Nature 2010)を通じ、これらのALS原因遺伝子に共通の結合タンパク質、あるいはパスウェイの存在を想定している。本研究では、TLSを中心に家族性ALS 病因遺伝子の神経細胞における機能を解析し、またTLS及びOPTN関連(結合)タンパク質を体系的に同定することにより、RNAプロセシングや細胞内輸送と神経変性の関係を明らかにすることを目的とする。さらに家族性ALS変異体を発現するモデルマウスを用いて、脳内環境としてのグリア細胞等、非神経細胞との関連を明らかにすることにより、神経変性機構のあらたなパラダイムを提唱する。TLSや同様にRNA結合能を有するTDP-43の共通の機構を調べるだけでなく、まったく別のALS原因遺伝子OPTNとの共通因子やパスウェイを探索することにより、また、グリア細胞を含む非神経性の脳内環境の研究を融合的に進めることにより、これまで予想できなかったあらたな神経変性のメカニズムが明らかにされることが期待される。

文部科学省「脳科学研究を基盤とした発達障害の行動科学研究プロジェクト」

本プロジェクトは、遺伝学に残された最後の領域ともいうべき心理学に生物学的アプローチを行う、すなわち心理学的解析が中心であった発達障害研究を生物学で理解しようとするものである。具体的には、私どもを中心に脳の発達障害マウスモデル(Nakatani et al, Cell, 2009)の行動科学を含めた統合的研究を行う。また、本プロジェクトの特徴は最先端の脳科学的研究による基礎的な成果だけではなく、そのアウトプットとして、教育心理への応用、さらには障害者のための環境建築計画を提案する。これらにとどまらず、自閉症を含む臨床ネットワークを構築していく予定である。ですので、臨床の先生にもぜひ参加してほしいプロジェクトであります。

科学技術振興機構「精神の表出系としての行動異常の統合的研究」

精神疾患は何らかの型で行動異常を来す。我々は、最新の染色体工学的手法を用いて、臨床例に基づくヒト染色体15q11-13重複モデルマウスを開発した。15q11-13重複は、自閉症の細胞遺伝的異常としてもっとも頻度が高いもので、実際、本マウスを自閉症様表現型のみならずヒトと同じ生物学的(染色体)異常を有する構成的妥当性をも充たす自閉症モデルマウスとして確立した(Nakatani et al, Cell, 2009)。一方、うつモデル動物を用いて気分障害と概日リズムの新規な分子相関関係を明らかにした。本研究は、本自閉症、リズム障害モデルをもとに行動異常の分子病態解明を行い、行動という表現型の客観組織化を通して新規診断法を開発するともに、さらには、環境因子を含めた行動療法や新規治療法の基盤開発を行う、行動異常の統合研究を目指す。精神疾患の行動異常に焦点をあてた、通常の生物学的なアプローチが困難な精神疾患への新たな研究戦略である。